坂道では自転車を降りて
倉庫から聞こえるウルトラな鼻歌
 資材倉庫から物音が聞こえた。おそらく大野多恵だろう。昨日も来ていた。彼女だと分かるのは、物音に混じって独り言や鼻歌が聞こえてくるからだ。

「The hills are alive with the sound of music
 With songs they have sung for a thousand years」

 可愛い歌声。サウンドオブミュージックのテーマソングだ。ミュージカルが好きなのかな。普段の声とは違った音色だ。

「あれ、、これは、、、あ、ここか。」 
変な独り言が挟まる。

 演劇部の部室は3つの部屋に仕切られている。廊下から入ったところに前室。通常は大鏡があり、発声練習や読み合わせ程度はここで行う。その奥を二つに仕切り、会議のできる居室と資材倉庫が隣り合っている。
 居室と資材倉庫の間の壁は薄いベニヤの板が一枚なので、音は筒抜けだ。天井灯が二つの部屋を仕切る壁のすぐ脇にあるのは、多分ここが、もともとはひとつの部屋だったからだろう。

「うわぁっ。」
悲鳴と言うには微妙な発音の叫び声が聞こえた。何かあったんだろうか。聞き耳を立てるが、悲鳴の続きはとくにない。

「でっか。タランチュラ。でかっ。」
部室にタランチュラが出るわけないけど、ようするにデカい蜘蛛がいたのか。

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