坂道では自転車を降りて
彼女はダメだ
暑い日だった。青い空に入道雲がむくむく膨らんで、日差しはジリジリと熱く、日なたにはとてもいられない。絶好のプール日和だが、体育は体育館でのバスケットボールだった。基本練習を少しやって、あとはリーグ戦が始まった。試合でないチームの生徒は蒸し暑い館内を避け、開け放たれた扉から外へ出て、わずかな日陰で涼んでいた。隣のプールからは女子の声が聞こえる。俺達もプール入りてぇ。体育館の壁に沿って積み上げられた廃棄机に座り、遠目からぼんやりと水着の女子を眺める。
突然、手前でしぶきがあがり、誰かが浮上して来た気配がした。

「ぷはっ。」
はあはあと息をしながら、くすくすと笑う頭が見え隠れする。すぐそこに水着姿の女子がいるという緊張で、誰もが一瞬無言になった。と、突然上半身が現れた。水着姿の彼女は、くるりと後ろを向きながら、慣れた身のこなしでプールサイドに腰掛ける。
 小さな頭、細いうなじに華奢でまあるい肩。水を弾く白い肌。スクール水着の後ろ姿は、息を整えながら、プールの向こうの端で騒いでいる友人に手を振る。ひらひら動く細い腕。もう一人、誰かこちらへ来たらしく、プールの中にいる人と話をしている。競泳でもしていたのだろうか?日差しを浴びて笑う姿が本当に楽しそうだ。意識がそこへ吸い込まれて行く。俺たちがいることに気づいたのか、不意に彼女が振り向いて、頬を染めてにこりと微笑み、またプールに消えた。
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