坂道では自転車を降りて
「なんで噂されたくないの?」
 教室に戻り、教室の後ろの棚に教科書を片付けながら、考える。こいつに話して大丈夫なんだろうか。口が軽いわけではないが、こいつは策略家だ。アンテナも高いから情報操作や根回しはぬかりがない。そこを買われて部長になった。

 去年の冬頃からだろうか、俺に何かと便宜をはかってくれている。俺を買ってるっていうのは本心なんだろうか。それもイマイチ確信が持てない。味方につけば心強いやつだが、彼女のことを話すのは、弱みを握られるような恐ろしさがあった。

 だが、こいつなら噂を消せるかもしれない。このまま放置して尾ひれまでついて校内を回ったらと思うとぞっとした。
 目を上げると原が窓辺に俺を手招きした。中庭に植えられたヒマラヤ杉の枝先に薄緑の新しい葉が生え始めていた。5階建ての校舎と並び立つ巨木の枝は揺れてざわざわと音をたてた。2人で耳を傾ける。

「何も出来なかったんだ。俺、すごく近くにいたのに気付かなくて。男二人掛かりで、口を塞がれて、いいようにされてて。多分、泣いてた。」
 原は驚いて、俺に視線を向けた。見開かれた目がそれは事実なのか?と聞いている。

「彼女は俺に気付いてた。絶対助けを求めて俺を見たと思う。もしかしたら、名前呼んでくれたかもしれない。なのに俺、寝てて。気付いた時にはもう駅に着くところで。」
「え。。話と全然違うじゃん。声かけたんじゃなかったの?」
「。。。。。。それは、また別の話なんだ。」
意味が分からないのか、原は黙っている。
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