坂道では自転車を降りて
 集合がかかった。俺たち2年5組の初戦は3年7組だ。整列して気づいた。鈴木先輩がいる。俺と目が合うと、にやりと笑った。今回は1回戦負けだな。

 鈴木先輩はスポーツ万能だ。背が高くて肩幅も広くて、いかにもスポーツマンという体格。顔だって役者をすればもっと客が入るのにと思う。どうして演劇部なんぞに、それも裏方にいるのか、理解に苦しむ。この世は不公平と不条理に満ちている。

 鈴木先輩がいるということは、このチームはそれなりに運動のできる選手で構成されていると見て良い。俺たちのような、寄せ集めのチームに負けるとは思えなかった。既に体格で大きな差がついている。一応バスケットボール経験者の2人がどこまで相手になるかというところだろう。

 礼をして試合が始まる。試合は予想した程一方的ではなかったが、こちらは必死なのに対し、3年生は笑顔さえ見える余裕のプレイで、常にリードされていた。鈴木先輩がゴールを決めると、黄色い声援が聞こえる。なんだかなぁ。たかが球技大会だし、と思った時、大きな声で名前を呼ばれた。

「神井くん!しっかりっ!がんばれっ。」
見ると大野多恵が応援してくれていた。裏とは言え演劇部だ。発声練習をこなしているだけある。体育館に響き渡る声に、皆が驚く。
「まだ、走れるよ。2年生がんばって!」
疲れた顔をしていた仲間が、ちょっと気分を盛り返した。
「大野さん 俺はー?」
飯塚が声援をせがむ。
「がんばって!応援してるよ!」
多分、大野さんは飯塚の名前を知らない。
「多恵ーっ、俺はー?」
「先輩はがんばらないで!」
そこは、”先輩もがんばって”だろ。

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