坂道では自転車を降りて
 岩場はさっき行って来た。行きたきゃ勝手に行けと思ったが、親睦が目的だ。役者の性格を押さえておいて損はない。立ち上がり後に続く。
 しかしながら、岩場に入ると、彼女達は足が痛いとか怖いとか言ってなかなか先に進まない。いちいち戻って手を取ってやるのが、面倒でイライラする。岩場の上から手を引いてやると、上目遣いの視線と胸の谷間がぷるぷると迫ってくる。こんな美味しい状況は、生涯もう二度と無いかも知れない。
 だが、嬉々として手をとってやる彼等と嬌声をあげる彼女達の姿を、少し離れた所から眺めてしまった俺は、その生臭さが耐えられないもののように思えた。
 俺は彼等に女子を任せて、どんどん先へ進んで行った。「神井くーん」美波さやかが俺を呼びつけたが、聞こえないふりをした。

 ひとり岩場の突端まで来て海の中を覗き込むと、魚が見えた。熱帯魚だ。夏の三浦半島には潮に流され迷子になった熱帯魚がみられる。冬には寒さで死んでしまう。ひと夏限りの儚い命だ。透明な海に飛び込みたい衝動に駆られたが、止めておく。波で岩に叩き付けられたら危険だし、一度降りたら岩に登るのは無理そうだ。延々と泳いで砂浜まで戻らねばならない。水泳が得意な訳じゃない。帰りにヤドカリを見つけたので、土産に持って帰る。

 美波達は途中の潮溜まりで、談笑していた。
「先には何があるの?」
「海に魚がいた。」
「そんな先まで行って、怖くないの?」
「別に。」
普通だろ。
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