坂道では自転車を降りて
 夜中に目が覚めた。水が飲みたくなって自販機を探すと、自販機の前で、話し声が聞こえた。
「順調すか?」
「推薦、決まったみたいなもんだから、なんかやる気でなくて。みんな勉強してるから邪魔しても悪いし。遊ぶ相手がいなくて、つまんない。本当は私も勉強しないと、入学してから困るって、先生にも言われてるんだけど。」
「大学生の彼はどうしたんですか?」
「別れた。なんでかな、、自分より偏差値の高い大学に入るのが気に入らないのかも。」
「小さいやつだな。別れて正解ですよ。」
「川村くん、遊んでよ。」
「良いですけど、、僕も、それなりに忙しいんで。」
「分かってる。今だけで良いから。」
「今だけって、、」

自販機の明かりの中で、二人が動いた。荒い息づかい。唇を探り合う音が聞こえる。
「んんっ。。。キスだけじゃなくて、もうちょっと、」
「もうちょっとって、先輩。ちょっとっ。。。。うわ。」
ギシギシとソファが音を立てた。
「お願い。。寂しいの。」
「さすがにここじゃ、まずいよ。先輩。。」
 俺は、後ずさりして部屋へ引き返した。俺は、あんなの嫌だ。あんな風に抱かれる先輩も身勝手だし、抱く川村もそれでいいのか? ただの遊びなのか。川村は何を考えているんだろう。
『早く捨てたって意味ないぜ』
あいつの心の闇が見えた気がした。大野多恵は今頃どうしているだろう。無性に会いたかった。
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