坂道では自転車を降りて
「何をしてるの?」
俺は近づいた。少なくとも彼女にとっては、特別な関係ではないらしい。面白そうなので成り行きを伺うことにする。
「別に、好きに弾いてるだけ。」
 川村はピアノに向き直り、こちらを見ずに言った。保護者と言いながら、こんなところを俺に見られて、ばつが悪そうだった。合宿の夜のことが思い出される。部室に彼女らしき子が来た事もある。後輩にレクチャーできるだけの事はありそうだ。

「神井くん、好きな曲とかある?」
「えーと、俺は音楽は、詩の方が気になって。あ、でも「オペラ座の怪人」とか好きかも。」
「それ!去年みんなで見に行ったヤツだね。私も好き。清水先輩がCD持ってるよ。借りた?」
「Phantom of the Opera だな。」
川村が訊ねる。弾けるのか?
「多分、それ。」
演奏が始まった。そうこの曲だ。舞台を見たときの興奮がよみがえる。
「愛しい人よ。今宵も。。」
大野さんが歌い始めた。上手い。こっちを向いて俺にも歌えと目で合図する。
「ともに歌おう。この歌。The Phantom of the Opera そう。私が。」
カラオケみたいで結構楽しい。

「神井も結構、歌えるんだな。他には?」
川村がいう。
「他は、超古典だけど West Side Story とか?あ、ロッキーホラーショーも見たぜ。」
ふと、彼女が倉庫で歌っていた曲を思い出し、言ってみた。
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