坂道では自転車を降りて

 その後 原に甘えて、二日ほど部をさぼった。明るい間に家に戻るなんて、試験期間の時くらいだ。何をしていいか分からず、小説を読んだり、テレビを見たりした。3日目、授業が終わりそのまま帰ろうとすると、川村が教室にやってきた。

「お前さ、演出行き詰まってるんだって?」
「。。。」
「もう時間ないぜ。」
「分かってるんだが、なんか、こう、もやもやするんだ。何をしても違う気がして。演出に集中できなくて。」
「だろうな。。。。」

「川村は何の用だ?例の曲の件か?」
結局作詞は中途半端にしか書けなかったため、川村の知り合いに頼んでもらうことになった。出来上がりに目を通す約束になっていたが、目を通しても何も言うつもりはなかった。
「違う。」
「だったら何しに来たんだ?」
「神井さ、いまさらだけど、演出降りたら?」
「。。。。。どういう意味だ?」
「脚本書いたんだから、十分だろ?」

そうかもしれない。もう疲れた。
「お前には、これ以上できないよ。」
「どうしてそう思う?」
「あの脚本、大野さんだろ。」

突然、大野多恵の名前が出て、驚いた。
「あの少女はお前の中の大野さんだ。誰がどう演じたって、お前は満足できないよ。別物だって割り切れない限り。だけど、今のお前の状況じゃあ、割り切って演出なんて、無理だろ。」

 言葉が出なかった。そうだ、あれは彼女だ。彼女が書いてくれた少年のような少女の絵が違うと思ったのも、どう演じても違和感が残るのも、そのためだ。すべてが分かったとたん、目の前が暗くなり、俺はよろけて壁にもたれかかった。
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