坂道では自転車を降りて
「。。。。そういうことか。」
一つの躓きが、全体の歯車を狂わせていたのだ。しかし、原因が分かっても、修復する方法も思いつかなければ、その気力もなかった。
「言われてわかった。ありがとう。」
「どうする気?」
川村は心配そうに俺をみた。
「お前の言う通りだ。演出は降りるよ。これ以上みんなに迷惑かけないうちに。」
「大野さんとは?まだ話してないんだろ?」
「話したところで、こんだけ嫌われてるんだ、どうにもならんだろ。。。。もう疲れた。」
俺はそのまま帰ろうと歩き始めた。
「本当にいいのかよ。おいっ」
問いかける川村を無視して早足で下駄箱へ向かう。早くその場から逃げたかった。

 あの少女が大野さん?そうだとして、それが何だというのだ。大野さんに嫌われているから、何だというんだ。何故、演出が上手く行かないんだ?しかし、もう時間がない。
 駐輪所へ行く途中、体育館の前を通った。運動部員達が練習を始めていたが、演劇部員はまだ舞台へは来ていなかった。俺は思い直して部室へ向かった。

 結局、俺は演出を正式に降板し、ただの雑用係になった。一旦、脚本に対する感情を排してしまえば、舞台が出来上がって行くのを部外者として眺めるのは、案外楽しかった。これが、自分の脚本を他人にゆだねるという事なのかと納得した。空いた時間には次の公演の脚本を書いた。
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