坂道では自転車を降りて
 5時間目はいつになくぼーっとしてしまった。彼女の手首。細かったな。親指と中指で輪を作る。親指の付け根に中指が届いたから、こんなもんか?あらためて見て驚く。500円玉くらいしかない。いくらなんでもおかしいだろ。
 自分の手首を握ってみる。自分の手首も断面で見ると案外細いことが判明した。それにしたって、細すぎる。でも、彼女だって見た感じ、体格は普通だ。特に細いわけじゃない。だとしたら、女子はみんなこんなに細いのか。それに柔らかかった。ふにゃふにゃってわけじゃないんだが、素材全体が柔らかいと言うか、男の身体の中にある硬い芯みたいなものが、彼女の腕にはないように思えた。肩とか、腰とかを抱き寄せたらどんな感じがするんだろう。余計な事を考えてドキドキしてしまった。

 その翌日から、彼女は倉庫に入る前に一旦部室に顔を見せて、俺に挨拶してくれるようになった。廊下ですれ違った時にも、俺に視線を向け、目が合うと人懐っこい笑顔で微笑んだ。今までは目線さえ合わなかったのに、急に挨拶されるようになり、戸惑ってしまう。彼女は倉庫で作業をし、俺は一人で脚本を書く。予鈴がなると、二人で部室を出た。

 数日後、いつものように弁当を食べながら書いていると、同じ1年の美波さやかと数人の女子が現れた。美波以外は部員ではないが、弁当を食べながら、何かの相談をする気で来たらしい。俺を見ると、少し困った顔をした。
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