坂道では自転車を降りて
「神井っ」
 そろそろ昼飯だが、と思ってウロウロしていると、原に呼び止められた。一年の女子と一緒だ。
「いたいた。探したぞ。」
「おう。お疲れ。」
彼は一年の女子の他に私服の女子を2人連れていた。ウチの学校の子のほうはなんとなく見覚えがあった。
「先輩、覚えてないですよね。この子。」
ウチの学校の女子が私服の女の子の1人を俺の前に差し出した。小柄で、あどけないというか、ぽわっとした子だ。中学生だろうか。
「えーと。ごめん。全然わかんない。」

中学の後輩か?申し訳ないけど、全く見覚えがなかった。彼女の方も俺の顔をまじまじと見ている。
「あの。私、東と言います。5月だったか、朝の電車で、その、痴漢されてたのを、声かけていただいて。」
「あぁっ。あの時の?」

こんな子だったかな?全然思い出せなかった。
「そうです。あの時は本当にありがとうございました。」
「あぁ。そうなんだ。いや、別に、声かけただけだし。」
「いえ、その後一度目が合ったのに、私、動転してて、逃げてしまって。申し訳ありませんでした。」
「それも、もういいよ。怖い思いしたのは君だし。それに俺の顔、怖いらしいから。」
「いえ、今はそれほどでも、ないです。」
「あの日は怖かったと。」
横から原がおかしなツッコミを入れた。
「ちっ違います。本当に動転してしまって、本当に、ごめんなさい。」
< 191 / 874 >

この作品をシェア

pagetop