坂道では自転車を降りて
 俺は仕方なく、彼等と一緒に昼食を食べた。彼等は俺達の舞台を見たという。どうせなら感想を聞きたいと思ったが、彼女達は遠慮して、主演が素敵だったとか、脚本を書いたなんてすごいとか、当たり障りのない感想しか言わなかった。こんなとき、大野多恵だったら、多分、正直に、時としてとんでもない感想を言って、空気を凍らせるんだろうな。

 気付くと東さんが俺を見ていた。目が合うとちょっと怯んだ。怖がらせないように頑張って笑うと、東さんも笑ってくれた。もう何ヶ月も経ってるのに、わざわざ俺を探し出して、尋ねて来てくれた。少しは優しくしても不自然じゃないだろう。

 原の魂胆が見えて来た。要するに、最近様子のおかしい俺に、この子をあてがおうというわけだ。原にしては分かり易すぎる作戦だが、乗るのも悪くないかと思っていた俺も、かなりどうかしていたんだろうと思う。こうやってできあがった即席カップルが後夜祭で浮かれて踊るんだなと考えて、我が事ながら笑えた。
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