坂道では自転車を降りて
 土曜日 市内の他校でコンクールが行われた。トラックを運転手ごと借りて来て、大道具を載せて会場となる高校まで運び、現地で組み立てる。女子は現地で後から集合だが、裏方と男子の一部は朝から学校で荷物を積み込んだ後、電車で会場へ向かう。現地に着くと、会場横の駐車場で装置と一緒にトラックに乗った大野多恵と椎名が、金槌を手に組み立て作業をしていた。

 先週、役者達は文化祭の舞台のビデオを見た。俺も演出に復帰した。少しの間だが、演出を離れていたのが良かったのか、方向が見えた気がしたからだ。仕上がりは上々だったはずだった。

 結果からいえば、コンクールはかなり残念なことになった。会場となった私立の女子高校の舞台は、舞台も袖も広く、袖には暗幕が垂れ、天井には照明装置がぶら下がり、バックライトやフットライトまである。いわゆる本当の舞台で、公立高校の体育館についているただの演台とは別の代物だった。

 こんな舞台だったら、セットや照明もやりがいがあるだろうし、役者だってもっとやる気がでるに違いない。そう思って、セットを少し後ろに配置して大きく動けるようにしたのが、マズかったのかもしれない。一応下見はしてあったのだが、慣れた母校のボロ舞台とのあまりの違いに、役者は緊張し、ハイテンションになる者、緊張して固まる者、役者同士が上手く噛み合なくなり、いつもの演技が出来なかった。
 1人が台詞をど忘れしたのをきっかけに、シーンがまるまる飛んでしまった。それを無理矢理アドリブで戻そうとして話がこんがらがり、その後はもうぐだぐだだった。もともと長めの脚本だったのが、規定時間をオーバーしてしまい、失格扱いになってしまったのだ。
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