坂道では自転車を降りて
「神井くんを見ていたら、つい触りたくなっちゃったの。でも、触っちゃだめだって言われて、なんでだか、すごく悲しくて。」
言いながら、彼女は自分の躯を抱きしめるかように両腕を組んだ。
「それは、いつの話?」
「最後に、図書室で会った時。私が、君の顔の絵を描いた日。」

確かに、彼女が俺の髪に触れて、俺は止めるように言った。言い方がキツくなってしまったのも覚えてはいる。
「。。。あれは、、そんなつもりじゃ。」
でも君は、その後も普通にしてたはずだ。
「家に帰ってからも、君に言われた言葉が、頭から離れなくて。ごめん。君は私のこと心配して言ってくれただけで、ちゃんと言われたようにしたら、良いだけなのも、分かってはいるんだけど。何故だか、いつまでも悲しくて。避けてた。ごめんなさい。」
「いや、あれ? 俺、そんなに怒ってた?」
「怒ってなかった。でも、会うと、涙がでそうになって。」

俺に触るなって言われて、悲しかったから、俺を避けてたのか。だったら、川村は?先輩は?何も関係なかったのか?胸に何かがこみ上げて来て、息苦しさを感じた。

「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。」
「わかってるよ。神井くんのせいじゃない。でも、悲しかったの。だから、あまり会いたくなくて。ごめんなさい。それに神井くんがそれを気にしてるなんて思ってなくて。傷つけちゃって、本当にごめん。神井くんのせいじゃないの。もう少ししたら、きっと大丈夫になるから。それまで、ほっといて。」
「大野さんは、俺のこと嫌いになった訳じゃないの?」
「嫌いじゃないよ。好きだよ。でも。。よく、わからない。怖くて。」
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