坂道では自転車を降りて

　そういう意味じゃないって分かってるのに、好きって言葉に心臓が跳ねあがる。でもすぐに怖いって言われて、今度は地面に叩き付けられる。立ち上がりかけた俺の心は、あっという間に打ちのめされてフラフラだ。
「そっか。怖い。。。か。よく言われるしな。」
怖いと言われるのは慣れてる。だけど、この前まで普通に親しくしてくれてたはずだし、彼女を睨んだり怒ったりした覚えもない。なんで突然。

「ちがうの！神井くんが怖いんじゃないの！」
彼女は慌てて否定した。一瞬だけど、俺を見た。涙の浮かんだ瞳が俺を射抜き、俺は言葉も動きも封じられた。すぐに目を伏せて彼女は続けた。
「神井くんは怖くないよ。好きだよ。あの時、怒ってなかったのも分かってるし、今どうして怒ってるかも、わかってる。本当にごめんなさい。でも、神井くんに会うと、なんだろ、胸が苦しくなって、泣きそうになって、どうしたらいいか、わからなかったの。だから、その、会うのが怖くて、、、今は、できれば会いたくないの。ごめんね。」

　胸が苦しいのは誰なんだ？俺か？君か？君の胸が苦しいのか？頭は朦朧として上手く働いてなかった。感覚だけで彼女の言葉を追う。
　あれ、彼女、なんか今、すごく変な事言わなかったか？俺の顔を見ると、胸が苦しくなってどうしたら良いか分からないって言わなかった？会うのが怖いって？

「あれ？」
　おれは唖然としてしまった。それって、恋なんじゃないのか？本人は無意識のようだが、これは告白に聞こえるぞ。彼女を見ると、彼女は俯いて自分の身体を抱き締めるように立ちカタカタと震えていた。好きだよ。という言葉が頭の中で回る。違う。そういう意味じゃないはずだ。