坂道では自転車を降りて
「ねぇ。。。俺に触ってくれない？」
彼女はびっくりして顔をあげ、赤い眼で俺の顔を見た。俺はもう一度言った。
「俺に触って。」
「いいの？」
「うん。」
彼女は、ゆっくりと手を伸ばし、俺の前髪に少しだけ触って、止めた。
「やっぱり、やめる。」
ダメか。でもいい。自分の気持ちを彼女に伝えた。それだけで十分だった。

彼女はゆっくりと俺の腕の中から出て、鞄を持ってドアを出て行こうとして止まった。振り返って言う。
「本当に？」
俺はうなづいてもう一度言った。
「君のこと、好きなんだ。本当に。触って欲しかった。本当は。」
彼女はまた俺の前に戻って来た。

「でも、俺以外の男には、触ってほしくないんだ。」
「神井くんには触ってもいいの？」
「俺だけだよ。」
彼女は頷いた。俺はゆっくりと彼女の手をとった。細くて華奢な手は冷たくて少し震えていた。思い切って彼女の手を自分の頬にあてる。手は一瞬引っ込もうとしたけど、そのまま俺の頬に触れた。彼女の目は驚きでまんまるくなっていた。

「最初からそう言えば良かった。ごめん。」
ようやく、彼女は微笑んだが、まだよくわからないといった顔をしていた。
「一緒に、、帰らない？」俺は彼女を誘った。
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