坂道では自転車を降りて
「本当、見てるだけで面白くて、可愛くて。。俺に気がなくても、そばにいられればそれでいいって思ってた。先輩の時には気付かなかった。そのまま一緒にいられると思ってたから。もしかしたら、先輩に勝てる気がしないから、気付かないふりしてたのかも。それに、、俺みたいなやつが彼女に触っちゃいけないような気がして。子供みたいで、何も知らないように見えたから。でも一番近くにいる自信あったんだ。俺が守ってると思ってた。実際、守ってたよな。」
「そうだな。」
「なのに、彼女がお前を気にし始めて、先輩が彼女に告白ったりして。俺とはクラスは別れちゃうし、一年が入って、作業も別々になっちゃうし、お前はこんな本書いてるし。マジ焦った。でもまだなんとかできるかと思ってたんだけど。。。俺も、案外ヘタレだな。結局、何もできないまま、盗られた。はは。」
俺は、何か気の利いた言葉を探したが、何も見つからなかった。
「分かった。CDはもらっとく。」
「うん。」

「そういえばさ、お前、舞台に立つ気はないか?」
「あ?」
「ピアノをモチーフに一本書いてるんだ。楽しくて切ない感じの話で、できたら曲も沢山作ってもらって、ミュージカルみたいにしてみたいんだ。それでお前には舞台でピアノを弾いてもらいたくて。本もいつもより早めに仕上げるよ。春の公演なら十分間に合うだろ。」
「俺は、いいよ。興味ないし。」
「演劇部にいるのに興味ないって。変だろ。バンドでステージには立ってるじゃないか。演技はしなくていいように書くからさ。」
「本当は無いんだよ。演劇とか。舞台も、裏も。」

 なげやりに言った顔を見て気付いた。
「お前。。。。。もしかして、演劇部にいるのは。」
< 219 / 874 >

この作品をシェア

pagetop