坂道では自転車を降りて
「貧乏って訳じゃないんだから、美容院くらい行けよ。」
「そうだね。似合う?」
いつもの原っぱみたいな匂いも好きだけど、花の香りも悪くない。
「あんま変わってねぇじゃん。」
嘘でも可愛いとか似合うよって言わなきゃイケナイ事は分かって入るんだ。けど、どうにも照れくさくて、言えなかった。それに、本当に気付かなかったんだよ。

「そっか。だったら、もう行かなくてもいいかなぁ。」
「あーっと、、いや、行って下さい。」
「え、なんで?」
うーん。なんでって言われても。。なんでなんだか俺にもわからないんだけどさ。ただ、どうして君は初めて美容院へ行ったのかなって考えたら、少し嬉しいような気がしたんだ。

 会う度、いろんなことを話してくれる彼女。校庭のキンモクセイの花の香りが好きだとか、反対側に植わっている柊モクセイも、同じ匂いのする白い花を咲かせたんだとか。体育館の裏の植え込みにモグラの巣があるんだとか。。こんな町中にもモグラがいんだんだ。モグラと言ったら地中を這い回り、親指姫を無理矢理娶ろうとするオヤジな印象だったので、実際にはハムスター程の小さくて可愛らしい動物なのだという彼女の話に、なんだかとても驚いた。本当に、俺とは視点が違う。
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