坂道では自転車を降りて
 本格的な稽古が始まってしまうと、部活では彼女と顔を合わせなくなった。役者と裏方のスケジュールはバラバラだ。今回は俺は演出でもないので、舞台監督と打ち合わせる必要もない。秋も深まって来て活動が終われば外は真っ暗だ。待ち合わせるのは気が引けた。昼休みの図書室のひとときだけが、2人の時間だった。

 俺は川村の事が気にかかっていた。先日一緒に帰ったとき、彼女は川村の様子がおかしいと言っていた。なんとなく元気が無くて、いつも飄々としていたあいつが、余裕を失くしている様子だと、心細げに言う。

「どうしちゃったんだろう。やたらテンション高めだなーと思ってると、突然ぷいっと帰っちゃったりするの。音響の仕事のほうもちっとも進めてないみたいで、高橋くんも困ってる。川村くんはチャラチャラしてるってみんな言うけど、音響の仕事もあるのに、大道具の相談にものってくれて、言えば必ず手伝ってくれる。後輩の面倒見も良いし、本当に頼りになるんだよ。今までこんなこと無かったのに。」
「あー。。」
俺には思い当たる節が大アリだが、彼女に言うわけにはいかない。

でもなんだかあいつらしくない。もう少し図太いやつだと思っていた。引退まで粘るとも言ってたし。
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