坂道では自転車を降りて
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 動きもだいたい決まり、稽古もやっとスムーズに進むようになってきたところで、とんでもない事態が発生した。主演の美波が怪我をしたのだ。おそらく数日は入院し、登校できるまでに1週間以上。いつ活動に復帰できるのかは目処も立たないと言う。公演には間に合わないだろう。

 急遽代役を立てる事になった。友人役の横江を主役に据え直し、端役の一年を友人役へ回す。
 素人は驚くが、訓練を積んだ役者は、新しい台本でも2日あれば覚えられる。2年の横江は本読みにも慣れているので1週間もあれば、舞台で動くだけならできる。問題は一年の生駒さんのほうで、こんな大役は初めてだし、最初は台本を覚えるだけで精一杯だろう。間に合うのか、かなり微妙だ。そして、足りなくなった女の端役に大野多恵を駆り出す事になった。彼女が舞台に立つのだ。

 自分は完璧でモテると思っている男、クリスマスに向けて彼女が欲しいが、なかなか見つからない。同様に自分になびかない男はいないと思っている女性。振り向かない男にイライラする。友人達も巻き込んでのドタバタコメディ。

 俺は主演の男にツッコミを入れる友人役を演じる。彼女は通りすがりのカップルの女役で、主演の男の目の前を、恋人とイチャイチャしながら通り過ぎる。その後も舞台の後方でイチャイチャしつづけ、群舞では一年の山田とペアで恋人同士っぽいダンスを踊り退場する。フィナーレにも背景的に登場する。

 大した演技はないけれど、一緒に稽古もできるし、彼女のダンスや演技も見る事ができる。案外、不器用だったりしたら、可愛くて面白いんだけどなぁとか、俺は呑気なことを考えていた。
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