坂道では自転車を降りて

「役者の奥さん貰ってる演出家とかって、結構いるよな。」
「???」
「奥さんと他の男とのラブシーンを演出したりしてるよな。どういう神経してるんだろうな。」
「何の話?」
「見てられないんだよ。気が狂いそうだ。」
「もしかして、私と山田くんのこと?」
困って泣きそうだった顔から少し力が抜けて、頬が紅く染まる。

「山田が君の腰に手を回したりして、君はやつに、、。だーっ、もう、まともに目に入ったら、頭に血が上って暴れだしそうだ。」
「。。でも。。。。だって、芝居だし。」
「分かってるよっ。」
思わず怒鳴ってしまった。分かってるんだよ。君と少しでも近くにいたくて、君にやらせようって演出に言ったのは俺なんだ。こんな事になるなんて思ってなかった。君は頑張ってくれてる。浅はかだったのは俺だ。考えれば考える程、イライラが募る。

 バスが来たので2人並んで乗り込み、無言でバスに揺られる。彼女は俺と目を合わせようとしない。怒鳴ったからだろうなぁ。明らかに怯えている。困って泣きそうな顔はマジ可愛いかったけど、目を逸らされると、やっぱりすっげーイライラする。

 部の会議で彼女を役者に駆り出すと決めたとき、彼女は不安そうな顔をしてたけど、少し嬉しそうに俺の顔をみた。裏方組にも大きな反対はなく、川村は隣で黙って聞いていた。ぞくりとするような無表情だった。『私の方がずっと親しいのに』彼女の言葉が浮かんで、ますますイライラする。

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