坂道では自転車を降りて
「濡れるぞ。」
「うん。もう帰る。おやすみ。」
彼女が紅潮させた頬で満足げに笑い、俺から離れた。

「おやすみ。」
俺が言うと、彼女は頷いて、きびすを返して走って帰って行った。門の前で一度振り向くと、あっという間に自宅の中に消えた。

 俺はしばらくその場でぼーっとしていたけれど、やがて霧雨の中を歩き出した。冷たい雨に俺達の手足は凍えていたけど、火照った身体が熱いくらいだった。

 その夜、俺は少しだけ脚本をなおした。
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