坂道では自転車を降りて
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 土曜の午後、原と俺と男子数人で美波の入院先へ見舞いに行った。横江達女子も午前に来たらしい。花を持って行くと、美波は体調は悪くなさそうだった。

「ごめんね。迷惑かけて。」
殊勝なことを言う。だが、本人が一番がっかりしている筈だ。
「舞台の方は、なんとかなってるよ。横江も生駒もがんばってる。ただ、ダンスはどうやっても美波のようには行かないな。まあ、なんとかするさ。」
原が現状を説明する。
「そっか。」
美波は口惜しそうに唇を噛んだ。

 俺だって、せっかく美波をイメージして美波らしい所をたくさん盛り込んだ本を書いたのに、肝心の主演が横江ではなんだか拍子抜けだった。横江は美波のようには踊れないし、声だって低くて、何度も叫ぶ「キャーッ」って台詞が空回り気味だ。多分、みんなそう思ってるだろう。横江だって比べられて不本意に違いない。こうなったら、台詞をガンガン書き直すしかない。

 帰ろうかと言う段になって、俺だけ呼び止められた。原が気を利かせて他の男子は出て行った。
「神井くん、ごめん。あの脚本、私の為に書いてくれたのよね?」
「君の為ってわけじゃないんだけど、まあ、君を見て書いたのは確かだな。俺も残念というか、拍子抜けした。」
「ほんとドジした。悔しい。」
美波の目から涙がこぼれた。こーゆーの苦手だなぁ。他のやつらに勘ぐられるのも気になるし。俺は話題を変えることにした。

「どのくらいで復帰できそう?退院したらすぐ登校できるの?」
「登校は出来るらしいけど、部活にでられるかどうかはわからない。通院しないといけないから。」
涙を拭きながら答えた。
「そうか。もし出られるなら、演出助手を頼めるかな。主に踊るシーンの。」
「考えておく。それまでに吹っ切れてたら良いんだけど。」

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