坂道では自転車を降りて
 急に彼の大きな手が私の髪を乱暴に掴んで引っ張った。顎をあげた私の顔に彼は再び口づけ始めた。何度も強引にキスを繰り返す。

「んんっっ。」
やめて。逃れようと手で身体を押し返すが、びくともしない。顔を背けることさえできない。キスは唇から頬、耳、首筋をくまなく移動し、また唇に戻る。

「あ。。。やめて。。」
それだけ言うのがやっとで、ろくに抵抗も出来ないまま、次第に、私の身体から力が抜けて行く。開いた唇から彼の舌が忍び込む。頬の内側を舌がなぞり、繰り返し唇を吸われた。身体の芯がしびれるような感覚。どうしよう、私、嫌じゃない。気付くと彼にもたれるように抱き合っていた。

「こんなキスはしてないだろ?」
脳裏に神井くんの顔が浮かんだ。
「。。。。。こんなの、だめだよ。」
涙がこみ上げる。

「はははっ。。」
彼は突然、私を突き飛ばした。私は壁に飛ばされ、身体を打った。痛い。ずるずると床に崩れ落ちる。

「くそっ」
言いながら彼は壁を叩いた。というよりは、自分の拳を壁に打ち付けているようだった。バキッと壁の割れる音がした。再び叩く。私ははっと我に返った。

「なにしてるのっ。やめて。手、手が壊れちゃう。」
思わず、その手にしがみつくと、また突き飛ばされ、今度は床に倒れた。
「うぅっ。」
彼は叫びながら、また、何かを叩く音がした。
「おねがい。やめて。」
もう一度、彼にしがみつく。
< 267 / 874 >

この作品をシェア

pagetop