坂道では自転車を降りて
 それにしても、なんでこいつは、「はい。」と素直に言わないのかな。

「だーっ。もう。分かるだろ。なんかヤバそうな雰囲気とか。人来なさそうな場所とか。部室ならともかく、階段教室は暗幕付の防音だぞ。そんなところで、男と2人になるなんて、襲ってくれって、言ってるようなもんだ。」

「そんなこと言われても、川村くんとはずっとそんなでも何もなかったし、彼女がいると思ってたから。。。」
「油断してたわけだ。」「それにあのとき。。」

彼女と俺の声が被った。『それにあのとき、』と言った後、彼女が”しまった”という顔をした。だが、会話は違う方へ流れて行った。

「信用してたの。油断じゃなくて。」
信用という言葉で縛られて、川村はどれほど苦しんだだろう。

「信用ね。鈴木先輩も信用してたんだろ?」
「。。。してた。」
「結局、どうなった。」
「。。。。傷つけた。」

 きっと怖い思いもしただろうに、”襲われた”じゃなくて、”傷つけた”と言う。彼女はそう思っているんだ。

「だったら、織田の事も、信用してれば。」
「ごめんなさい。これからは、もっと気をつけます。」
「わかればよろしい。」

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