坂道では自転車を降りて
「何もないよ。川村くんは何もしてない。でも、私、あの時、それでもいいと思ってた。川村くんになら、何をされてもかまわないと思ってた。」
「。。。。。」

なんだよそれ。そんなの聞きたくねぇよ。思わず全身の力が抜ける。彼女を掴んでいた手が離れた。

「ごめん。さよなら。」
彼女は走り出した。
「あ、おいっ」
追いかけようと思ったが、追いかけていいのか、追いかけて何を言うつもりなのか、分からないまま走ったからか、脚が動かず、彼女には追いつけなかった。冷たい霧雨の向こうに彼女が遠ざかって行く。

”さよなら”ってその”さよなら”なのか?俺たち、もう終わり??まだ、まともなデートすらしてないのに。

 その夜、俺は布団の中で悶々とした。『それでもいいと思っていた。』というのも 少なからずショックだったが、ただ、それだけのことで、申し開きもされず、あんなにも簡単に『さよなら』と言われたことの方がショックだった。

 これしきのことで、彼女と別れたくないのが本音だが、俺が引き止めるべきなのか。しかし、悪いのは彼女だ。彼女はどう思っているのだろう。

 それに、何をされてもかまわないということは、川村がその気になったら、いつでも盗られるかもしれないということだ。彼女は本当に俺が好きなのだろうか?本当は川村が好きだったんじゃないか?だったら、何故、逃げて来たのか?何故、俺に助けを求めたのか。そもそも、本当に何もなかったのか?川村は、2人は本当は何があったんだ?

 頭の中でぐるぐると思考が回り、脳みそが泡立っているのではないかと思われた。
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