坂道では自転車を降りて
川村ともみ合いになりながら、彼女の腕を強引に引っ張る。
「多恵っ。こっちへ来い。」
「痛いっ。離して。」
「やめろっ。痛がってるだろ。」
「なにっ。」
俺と川村は睨み合った。

「お願いやめて。川村くんが壊れちゃう。」

 はっと目が醒めた。夢だ。そうだ。今のは夢だ。なんだって、こんな夢。俺は、無理矢理奪おうとしているのか?そんなつもり、全然ないのに。だって告白して来たのは彼女だろ。いや、あれは本人は告白のつもりじゃなかったよな。彼女は後悔しているのかもしれない。彼女は本当は川村のところへ行きたいんじゃないだろうか。でも、俺と付き合い始めてしまったから、正直に言えないのか?

 だったら、確かめなくちゃ。俺はコートを羽織って家を飛び出した。暗い街灯の下、自転車を引っ張りだす。彼女の家まで自転車を飛ばせば5分ちょっと。家の前に自転車を停めて彼女の部屋の窓を見ると明かりがついていた。まだ起きてる。携帯で電話をかける。

「君の家の前にいるんだ。会えないかな?」

 胸元の開いたネグリジェにガウンを羽織っただけの格好で彼女は出て来た。サンダル履きの白い素足がものすごくなまめかしい。でも、俺だって寝間着のトレーナーの上にコートを羽織っただけの、おかしな格好だった。

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