坂道では自転車を降りて
もっと君と一緒にいたい
 放課後、彼女は普段通り部活に来ていた。俺はなんとかして彼女と話がしたかったが、2人になれたところで、何を言ったら良いのか、よくわからない。じりじりと時間が過ぎ、きりきりと胃が痛んだ。
 活動が終わり、帰る時間になって部室へ戻ると裏方連中がまだ作業をしていた。役者連中が帰るのを横目で見ながら、雑用を片付けるふりをして、裏方組が終わるのを待つ。

 明日はもうリハーサルだってのに、裏の作業も随分押してるんだな。気付くと俺は、立ったまま隠す事もせず茫然と彼女を眺めていた。裏方組の一年達が、俺のことを訝しげに見ていたけど、いいかげん隠すのも馬鹿らしくなって来たので、そのまま彼女を見ていた。こいつらにはもうバレてるし。

 それにしても、彼女はよく働くな。でも、少し元気がないというか、笑顔が少ない。昨日の今日で、俺がここでガン見してるんだから、あたりまえか。。

 ほどなく裏方の作業も終了し、彼女が解散を指示した。彼女は着替えるために倉庫へ入った。男子は部室で着替える。俺は前室へ移動した。帰宅する一年が俺に挨拶する。

「お疲れさまでした。」
「神井先輩は、大野先輩と一緒に帰るんですか?」
「あぁ。」
「部室の窓の戸締まりはしました。倉庫の窓と表の鍵をお願いします。あと、」
「なんだ?」
「いえ、大野先輩と神井先輩、家、近いんですよね?家まで送るんですか?」
「あぁ。」
「じゃあ、お願いします。」
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