坂道では自転車を降りて
 小学生の頃、何かトラブルがあるとすぐ泣く女子は本当にウザかった。高校になってもやっぱりすぐ泣くんだな。なんだって、女の子はすぐ泣くんだろう。何か言おうとしているらしいが、激しい嗚咽で、意味不明だ。

「わかったから、もういいから、泣かないでよ。」
俺は、半ば反射的に言った。

 泣くとか、ずるいだろ。彼女は自分の涙の破壊力を知っているのだろうか?何よりも直接的に俺を非難して、俺はただオロオロして涙を止めるのにやっきになって、何もできないまま、何もかもが終わる。まさしく最終兵器だ。

「んんっ。」彼女は首を振る。何か違うのか?泣きながら、今度は突然、俺の首に抱きついてきた。湿った吐息が俺の首筋にかかる。彼女がしゃくり上げるたび、ちいさな胸が上下して、揺れる乳房が俺の胸元をかすめる。誰もいない夜の部室。暗い倉庫。泣いている彼女。頭の中が白くなって、危険な衝動が湧き上がる。思考能力が低下していくのが分かる。やばい。

「ちょっ、ちょっと、待って。」
 俺は慌てて彼女を引き離した。引き離した彼女の顔は、絶望そのものだった。
「ちがうんだ。ちょっと落ち着こうよ。」

 

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