坂道では自転車を降りて

　彼女は焦点の合わない目で、床にぺたんと座り込んだ。なんでそんな顔するんだよ。俺は彼女の隣に座り、ちぎれそうになる理性の糸をたぐり寄せる。

「ねぇ、、、泣くとか、ずるくない？」
彼女はびくっと反応した。
「抱きつくのだって、反則だろ。」
ゆっくりとうなづく。何か言おうとして再び顔を上げるが、声にならない。代わりに激しい嗚咽がまた始まってしまった。

　俺が途方にくれていると、彼女は俺の手を取って、手のひらに文字を書き始めた。
「ご・め・ん・な・さ・い。」
「先・帰・って欲しいの？どうして？」
「泣・く・嫌・い。」
泣いてるのを見られるのが嫌なのか。。。泣きたくて泣いてる訳じゃないんだな。
「君・が・好・き」
そこまで書くと、彼女は俺の手を離した。俺が好きって、今書いたのか。書いたよな。君が好きなのは、俺でいいのか。本当に？

　彼女は少し落ち着いて、嗚咽も収まって来ていた。両手で顔を覆い、下を向いたまま、静かに言った。

「ひとりになりたい。先帰って。」
好きって言っておいて、帰れって、なんなのそれは？

「一つだけ、教えて。」
俺が言うと、彼女はまたぴくりと反応した。

「俺、まだ君のこと好きなんだけど、君は俺のこと、好き？」
彼女は小さく頷くと、また下を向いた。
「俺、もっと君と一緒にいたい。君のこと知りたい。」