坂道では自転車を降りて
「ごめん。俺のせいだ。」
家まで送るって、あいつらにも約束したのに。
「ちがうよ。私がちゃんと明るい道を歩かなかったから。」
彼女は俺を手で牽制しながら、街灯にしがみつき、自分を落ち着かせた。俺は、ただ呆然と横に立って彼女を見ていた。

 しばらくして、彼女が落ち着いてから、二人で鞄を探しに行った。鞄はすぐに見つかった。中身もとくにあさられた様子はなかった。

「酔ってたみたいだから、からかわれただけだよ。大したことない。もう平気。」
彼女は言ったが、俺は生きた心地がしなかった。もし、ただの酔っぱらいではなく、本当の変質者だったら。

「後ろに乗って。送るから。」
「いいの?」
「当たり前だろ。」
「やった。ありがとう。」

 わざとなのだろう。白々しすぎる。もう俺には弱みを見せたくないのか。何事も無かったかのように笑う彼女が悲しくて、俺の方が泣きたくなった。荷台に乗った彼女は、もう俺の腰には触れず、荷台につかまり「いいよ。出して。」といった。
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