坂道では自転車を降りて

　大したことなくないだろ。夜道で知らない男に抱き上げられたんだぞ。なのに、涙の一粒も流さず、俺に触らせもしなかった。なんで、あんなに意地を張って俺を遠ざける。俺が好きだって、さっき言ったばかりじゃないか。どうして。何でもないふりをして。抱きしめたいのに、触らせてもらえない。俺はなんであの時、強引にでも彼女を抱きしめてやらなかったのか。

『大丈夫だよ。何？』泣きながら歩いていたのに？
『大丈夫。』酔った男に襲われたのに？
『私は大丈夫。』友達だと思っていた男に乱暴されたばかりだったのに？

「なんで、大丈夫って言うんだよ。」
『心配させてごめん。』

　隠すなよ。心配させてよ。助けに行くから。抱きしめるから。。。思いながら、そのどれも出来なかった自分に気付く。泣きながら抱きついて来た彼女をずるいと非難した。心配するより先に責めて、公園に置き去りにした。助けは間に合わず、彼女は自分で逃げて来た。触らせてもらえなくて当然だ。