坂道では自転車を降りて
 いつか電車の中でみた彼女の姿が蘇る。男に口を塞がれて、羽交い締めにされて、震えていた彼女。彼女を助けたい、俺が守りたいと思っていたはずなのに。俺が公園に置き去りにして、泣かせて、暗い夜道を1人で歩かせて。。。俺が電話していなければ、酔っぱらいにぶつかったりしなかったかもしれない。そう思うと、どうしようもなく落ちて行く。

「俺、最低。。」
電話すると言った時には、何か明るく光るものを手にしたような気がしたのに、もうなんだったか忘れてしまった。

 気付くと俺は自宅の前でぼーっと立っていた。自転車を停め、玄関のドアを開ける。とてもじゃないが親の顔を見られる状態ではない。息を殺して自室へ逃げ込んだ。

 部屋に戻ってからも悶々としてしまい、気付くと夜中になっていた。電話すると言ったのに。待っていただろうか?とりあえず、メールする。
『ごめん。遅くなったから、電話はまたにする。』
すぐに返信が来た。
『おやすみ。』

 やはり待っていたのか。胸が痛い。布団に仰向けに寝転がると、涙が流れた。

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