坂道では自転車を降りて
「みんなと、仲良くなれて、嬉しかったの。」
「ん??」
「私、裏方だし、役者の女の子達とあまり親しくしてなかったでしょ?女の子達は衣装や小道具は作っても、大道具はあまり手伝ってくれないし。でも、今回役を貰って、みんなといろんなこと話して、打ち上げにも出て、すごく楽しかった。嫌われてると思ってたから、すごく嬉しかったの。」
「嫌われてるって、なんで?」
「1年のときの夏休み後くらいかな、なんか、なじめないというか、意地悪されてる感じがあったんだけど、ちょうど一年前の打ち上げの時。私、部室に忘れ物を取りに行かされて、閉じ込められちゃったの。」
「なにそれ?」
「結局、すぐに川村くんが助けに来てくれたんだけど。なんだか、それ以来、怖くて。みんなとあまり話せなかった。でもね。今日、謝ってくれたの。知ってたのに助けてあげられなくてごめんって。見て見ぬフリしててごめんねって。結局それは、もう引退した先輩がしたことなのは知ってたんだけど、今年になってもそのままで。でもきっと、私にも悪いところがあったんだと思うし、ちょっと時間かかっちゃったけど、みんな仲良くしてくれたから、なんか、嬉しくて。」
「。。。。。」

 愕然とした。そんなことがあったなんて、全然知らなかった。っていうか、役者の女子達と親しくない事は知ってたけど、全然気にしてなかった。言われてみれば合宿だって来なかった。送別会では酒を飲まされていた。みんなあだ名で呼び合ってるのに、彼女だけ「大野さん」だ。気付かなかったじゃ済まされない。俺、本当に彼女を見てない。

 それに、一年前、彼女を助けに戻ったのが川村だったという事もショックだった。その時、俺もいたはずだ。でも当時、俺の中での彼女は、ちょっとかわいいかな程度の女の子で、いないことにすら気付いていなかった。あいつはそんな昔から、いや、一年前どころじゃない。入部する前から、ずっと彼女を見てて、守ってたんだ。
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