坂道では自転車を降りて
「川村くんとはもう友達には戻れない。それも悲しいけど、自分が、知らずに甘えて、彼を傷つけてしまっていたことが一番悲しい。それを償えない事も。ずっと傍にいてくれたのに、私いつも自分の事でいっぱいで、甘えてばかりで、彼の事、何も気付いてなかった。ううん。ちがう。多分、私、気付いてた。でも、気付かないフリをしていた。ずっと、甘えていたかったから。ずっと、優しい友達のまま側にいて欲しかったから。」

 彼女は膝を抱えて俯いた。俺は彼女に触れようか触れまいか、悩んでいた。それを察したのか、彼女は話を続けた。

「君に話はしたけど、これは私の問題だから、君に甘えるべきじゃないと思うんだ。1人で乗り越えたい。川村くんだって、今、一人なんだから。この前、泣いたのは、そういうのじゃなくて、単に君に嫌われるのが怖かったから。後ろめたい事があったから、不安になって泣いたの。君の言った通り、ずるい涙だったと思う。ごめんなさい。」
「いや、、ずるいとか、ずるくないとか、関係なく、君が泣きたかったら泣いたらいい。泣いていいよ。ずるいなんて言って、ごめん。」
「本当は君の前で泣きたくなかった。ずるいって分かってるから。」
言いながらまた声が湿って来た。

「もしかして、それで最初出てこなかったの?部室に閉じこめられちゃうかもしれないのに?」
「それは、大丈夫なんだ。」
ふっきるように明るい声で言って、彼女はいたずらな笑顔で俺をみた。
「?」
「窓から出られるんだ。」
「へ?」
「出られるんだ。そこの窓から、ひさしに降りて、渡り廊下の柱を伝って降りられるの。」

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