坂道では自転車を降りて
 立ち上がり、涙をぼろぼろ流しながら俺を睨みつける。まただ、俺はまた自分の事しか考えていなかった。彼女の気持ちも、川村の気持ちも踏みつけて、自分だけ逃げようとした。自分の浅はかさに、弱さに、目眩がした。

「私が許せないなら、そう言えばいいじゃない。もう信じられないって、もう好きじゃないって、そう言えば良いじゃない。なのに、なんで、そんなおかしな事。分かったフリして、良い人ぶって、逃げてるだけじゃない。バカじゃないの?」
「そんなつもりじゃ。。」
「許せない。もう知らない。」

怒りなのか、悲しみなのか、震える声でいうと、彼女は立ち上がり、鞄を掴んで出て行こうと歩き出した。俺は今、取り返しのつかない事を言ったのか。

「待て、待って。」
ここで離したら、永遠に終わりだ。謝る事もできなくなる。俺は彼女の腕を掴んだ。
「もう、あきれた。離して。神井くんなんて、」
彼女は突然、槍でも刺さったみたいに、胸を押さえて俯いた。
「神井くんなんて、、、。」
苦しそうに、うめいている。”大嫌い”そのひと言がいえないのだ。俺の心臓がドクンと音を立てた。
「もう、離して。」
絞り出すような細い声は涙で震えていた。

「ごめん。君の言う通りだ。俺がバカだった。もう言わない。もう二度と言わないから。行かないで。」
しがみつき、捕まえた。俺の腕の中で彼女は泣いた。
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