坂道では自転車を降りて
あのな。。。。そういえば、
「君、いつものスケッチブック持ってる?」
「クロッキー帳だってば。持ってるよ。」
「見せて。」

 空き地近くの路上に自転車を停めて、2人で覗き込む。最初のページはゾウをこなしているうわばみに病気のヒツジ、それから箱。その後、半分くらいまでは、舞台用のイラストや、誰だか分からない人物が描かれていたが、次第に近影が増える。フィルターかかって2割増美形の俺。恥ずかしい以外の何物でもない。
 後ろの方は、デッサンに混じって独り言だの、マンガだの、口に出すのも恥ずかしい落書きだらけだ。彼女も改めて見ると恥ずかしいのか、顔を赤らめて俺を見た。

「これ、椎名に見せたの?」
「!!見せてないよ。こんなのっ!見せる訳無いじゃん!」
「見たって言ってたよ。多分、勝手に見たんだな。それに、椎名だけじゃないかも。」
「うそっ。信じらんない。恥ずかしいっ。」
「どうせ、その辺に置いといたんだろ。」
「うっ。。。。でも、だからって、」
「鍵がかかってなくても、勝手に見ちゃいけないものって、あるんじゃないの?」
彼女は、悶絶して俺の自転車の荷台に倒れ込んだ。
「すみません。気をつけます。」
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