坂道では自転車を降りて
初デート
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 正月開け、普段着の彼女は、なんというか、流行とは無縁に見える独特のファッションで立っていた。制服の時の凛とした雰囲気も良いが、一見、気弱そうな顔とふわふわの髪に、どこかノスタルジックな服はよく似合っている。

 焦茶のふわふわした襟元と大きなボタンが可愛らしい。それに襟元と同じ色の帽子を被っている。帽子と言えば学帽か野球帽くらいしか思いつかない俺にはちょっとした衝撃だった。この帽子はつばもなければ耳当てもない。ファッション以外に機能はなさそうだった。彼女のおっとりした雰囲気と重なって、古い映画の中から出て来たみたいだ。もの憂げに人通りを眺めている。

 背だって特に高いわけでもない。スタイルも悪くはないけど良くもない。とりたてて美人って顔でもない。なのに、そこだけ別世界のようで、なんとなく彼女に目が行くのは、俺だけかな。俺だけだな。

 待ち合わせ時刻まであと3分。遅刻ではないが、初めてのデートだとすれば、彼女より後に現れるのはまずいかもしれない。呼吸を整えながら、言い訳を反芻し、彼女に近づいて行く。と、彼女が顔を上げた。見知らぬ男達が彼女の前に立つ。彼女と何か話しているので、そのまましばらく観察する。道を尋ねられたらしい。俺は構わず彼女に近づいた。

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