坂道では自転車を降りて

 彼女を見ると、彼女は困った顔で下を向いた。
「俺だって、本当は君の『したい』を待ちたいんだ。けど、待ちきれなくて、やっちゃってから後悔するんだ。終業式の日のことも、すごく後悔してるんだ。」
「そんなの。私は後悔してないよ。びっくりしたけど、嫌じゃなかったよ。」
嘘ばっかり。怖いって、嫌だって、君は何度も言ってたよ。俺にも聞こえてはいたんだよ。

「嘘つくなよ。怖いって泣いてたじゃん。」
「本当だよ。だから、、」
声が湿って来た。だから、何だい?
「私のこと、嫌いにならないで。」
震える声を絞り出す。

「。。。。。は?」
意味が分からんぞ。嫌われるのは俺だろ?
「多恵、今の話、ちゃんと聞いてた?」
「え?」
「俺は。。。。」
何か話がかみ合ってない。。もう一度同じ話をしようかと思ったけど、止めた。要は俺がしっかりしてれば良いんだ。

「大丈夫。多恵が好きだよ。」
「うん。」
「帰ろう。送るよ。」
 俺は彼女の手を取り歩いた。彼女の冷たい手が温まるように、包み込むように手を握り、俺のポケットへ入れた。彼女はただ俯いて、恥ずかしそうについてきた。月明かりが僕らを照らしていた。

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