坂道では自転車を降りて
「ごめん。本を取ろうと思ったんだけど、。」

とっさにしがみついてしまったものの、大野先輩はどうして良いか解らないらしく、脚が机上に残ったまま吊り橋状態で固まっている。一方で原先輩の顔はニヤけている。
「今ゴチって、大野さん、頭、大丈夫?。。って、結構重いね。」

言いながら彼は何故か彼女を降ろさずに抱き上げた。お姫様抱っこだ。案外サマになっている。でも、原先輩ってこんなキャラだったか?

「うわ。何?どうしたの?」
彼女が驚いてたずねる。原先輩はニヤニヤ笑って、そのままぐるりと後ろを向いた。

「親方ぁ。空から女の子が降ってきたぁ。」
 原先輩の後ろには、ポスターを手に持った神井先輩が立っていた。2人で剥がし残して苦情の出たクリスマス公演のポスターを剥がして来たところらしい。それで脚立がなかったのか。

「誰が親方だ。さっさと降ろせよ。」
もともと凶悪な目つきがこれ以上ないくらい釣り上がっている。視線だけで人を殺せそうだ。その場にいた全員の背筋が凍る。いや、原先輩以外。

「ノリが悪いなぁ。彼女の危機を救ったのに。ねぇ、シータ。」
 原先輩は全く動じない。からかうように抱き上げた大野先輩の髪に鼻先を近づける。あの顔を見てまだふざけるとか、並の神経じゃない。首筋に何か触れたのか、大野先輩が驚いて肩をすくめた。

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