坂道では自転車を降りて
「ありがとう。ごめんね。本は放課後に棚に戻すね。」
そう言って、彼女は本を調べ始めた。定位置に戻った部員達はみな無言のまま、見るとはなしに本を調べる彼女を眺めている。これは俺の彼女なのに。無性に彼女に触れたくなった俺は椎名に近づき、顔を近づけて小声で言った。

「そろそろ昼休みが終わるぞ。」
「そうですね。」
「意味分かるよな。」
「。。。分かりますよ。」
椎名はムッとした顔をしたが、わざとらしく大きなため息をつくと、他の一年を誘って、教室へ戻って行った。俺と原も前室へ移動した。

「原、ごめん。今度、その、ちゃんと話すよ。」
「別に、改めて話すこともないんだけどね。」
「原にいろいろ押し付けてるというか、助けてもらってる事は分かってるし、感謝もしてる。その、」
親友だと思っている。が、言葉にするのは恥ずかしかった。
「俺も大人げなかったかな。彼女に謝っといて。」
 部室に目を戻すと、彼女は熱心に本を調べていたので、原は彼女には声をかけずに出て行った。

 俺は部室へ戻り、熱心に本を調べていた彼女を後ろから抱きすくめた。彼女は電流が流れたみたいにビクッとして、息が止まった。
「やっ。ちょっと。。」
「大丈夫。もう誰もいない。」
「でも。」
「もうすぐ、昼休みが終わる。少しだけ。いい?」
「。。。。うん。」
頷いた彼女の身体から、少しずつ力が抜ける。俺に身体を預けてくる。
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