坂道では自転車を降りて
「お仕置き。」
俺は彼女の胸の膨らみを両手で包んだ。
「あっ。」
ゆっくりと柔らかさを、彼女の反応を、確かめる。
「ダメ、だって。んぁっ。やだっ。」
彼女は机に積まれた雑誌の山に倒れ込んだ。抱き上げてこちらを向かせると、潤んだ瞳に頬を紅くして戸惑いの表情を見せる。ぞくぞくするほど色っぽい。乱暴に抱き締めると、彼女がビクッと震えた。

「か、神井くん?」
震える声に俺の中の獣が吠える。彼女という獲物の回りをウロウロと回り始める。同時に、その獣を押さえつけようと追いすがる俺がいる。
「もう授業が。。」
授業と聞いて、獣は大人しくなった。
「。。。そうだな。ごめん。」
 俺だって、彼女を困らせたい訳じゃないし、こんな顔を他の男に見せたいとも思わない。でも、この高まりはどうしたらいい。ため息とともにもう一度抱きしめた後、俺はやるせない気持ちのまま、彼女を解放した。

 彼女は背筋を伸ばして立つと、震える手でまた本をめくり始めた。俺は部屋の隅に立ち、本を手に激情が通り過ぎるのを待っている彼女を眺めた。頬を染めてはいるが、穏やかに見える表情。俺を避けるように動く視線の中に時折、激情に抗い震える彼女が見え隠れする。なんで、こんなに、俺を狂わせるんだろう。

 みんなこんななんだろうか。彼女の態度や行動に一喜一憂して、彼女が欲しくなって、手を伸ばしては引っ込めて、悶々とする。回り中の男に嫉妬して、彼女を傷つけて。あげく冷静でいられなくなって、自爆して後始末に奔走し、自己嫌悪に陥り、不安になって、また彼女を求める。
 2学期はジェットコースターに乗ってるみたいだった。こんな状況がずっと続いたら、とてもじゃないが耐えられそうにない。なのに、自分からは手放せない。このままでは、遠からず俺は破滅してしまうだろう。それもこれもみんな目の前のこの娘がいるせいだ。無茶で無防備で、強引で、優しくて、強くて、弱くて、憎らしくて、愛おしくて。俺は頭を抱えた。

「私、そろそろ教室に戻るね。ごめんね。神井くん怒ってる?怖い顔してる。」
「怒ってないよ。ちょっと考え事してるだけ。」
「ごめんね。また放課後にね。」
何度も謝る彼女に、また自己嫌悪する。

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