坂道では自転車を降りて
「あ。」
切なげに揺れる瞳は俺を捜している。目が合うと安心したように微笑み、目を閉じた。その瞬間、俺の中にあったこわばったものが全て融けて流れ出て行ったような気がした。この娘が好きだ。ただ、それだけなんだ。続いて何かモコモコした熱いものが立ち上がる。濡れた睫毛。歓喜の吐息を漏らす唇。全てを俺に委ねたその表情に鳥肌が立つ。
だめだ。これ以上進んだら、また止められなくなる。身体の中から湧き上がる熱い衝動と外側からそれを押さえつけようとする硬い鎧に挟まれて、俺の心臓がギシギシと軋んだ。
彼女を力一杯抱き締める。目を閉じる事も忘れて、彼女の肩越しに熱い息を吐き出す。何度も、ただ抱き締めながら、白い息と一緒に少しずつ身体の熱を抜いて行くと、彼女の温かくて柔らかな躯が烈しく息づく様が、俺の身体に刻み込まれていく。なんだろう、彼女を満たしてやりたくて、始めた事なのに、俺が満たされている。彼女は安心できたのかな。さっきの笑顔は信じても良いんだろうか。今夜、彼女は安らかな顔で眠ってくれるのかな。彼女の中にも俺の何かが残っただろうか。
終わりにする前に、目の前に見える白い首筋に、痕を残したくなった。唇を寄せ吸ってみる。案外,痕なんか付かないんだな。もうちょっと強く吸うのかな。ちうちうとがんばって吸ってみる。
「痛い。」彼女が言った。
「ごめん。」
キスマークは諦めよう。今日のところはこんなもんだろ。よし。よく頑張った。俺の理性。
そのまま優しく抱きしめていると、しばらくして、彼女がもぞもぞと動きはじめた。俺にぶら下がっていた身体が軽くなる。
「満足した??」
俺が尋ねると、
「ん、もうちょっとだけ、いい?今度は神井くんがこっち。」
と言って、身体を入れ替え、俺を遊具に押し付けた。俺のコートと詰め襟のボタンを外し始めた。
「何するの?」
せっかく俺が我慢したんだから、あまり刺激するなよ。