坂道では自転車を降りて
放課後の活動に珍しく早めに現れた多恵は、1人倉庫で昼に相談のあった引き戸の調子を見ていた。
「今日、一緒に帰らないか?」
倉庫のドアを開けて頭を突っ込んで話しかける。なんか、2人で中に籠もるのはまずい気がした。
「ごめん。今日はメグと買い物して帰るから。」
「そうか。」
がっかり。
「化粧品、買わないと。」
肩をすくめて言う。声に抗議の色が混じっていた。
「ごめん。」
そういうことか。痕はまだ数日は消えそうになかった。
「でも、誘ってくれて嬉しかった。また誘って。」
「ああ。」
しょぼくれた顔で頭を引っ込めようとしたら、呼び止められた。
「神井くん。」
「何?」
「笑って。」
「ん?」
「こっち見て笑って。」
「なんだよ。」
照れくさいけど、ちょっと笑う。
「ありがとう。」
彼女もはにかむように笑う。ああ、そうか。抱き合うよりも、何よりも、視線を合わせて微笑む瞬間が、一番満たされるんだ。心さえ繋がっていれば。