坂道では自転車を降りて
言葉がでない。あの姿が、俺の本を抱えて迎える君の最期。全てに絶望した最期の時に、君は俺の本を腕に抱いて死にたいと思うの?何それ。それ以上の殺し文句があるかだろうか。。それがまた無自覚だから恐ろしい。
彼女は普段お世辞を言わない。駆け引きもしない。その時に思った事をそのまま言うだけだ。それが周囲にどう思われるかは、いつもあまり考えないらしい。それが良い時もあれば悪い時もある。今も思った事を言っただけなんだろう。だけど。。
ふとイメージが浮かぶ。悲しい、あまりにも悲しい恋の物語だ。恋した人への想い、まっすぐでひたむきで、がむしゃらな。けれど、誰にも理解されない。去って行く恋人。受け入れがたい現実に、少しずつ精神のバランスを崩して行く娘。傷つき倒れ、彼からの手紙を手に思い出の野原で夜空を見上げる。死ぬ事でしか成就しない彼女の恋。頭がイメージにとらわれて、胸が苦しくなって来る。
多恵は違う。今ここで生きてて、明日も俺と楽しく過ごすんだ。精神を病むような状況ではない。分かってるのに、不安になる。
「みんな、良かったって言ってくれたよ。特に本を持つ手が良かったって。」
「そうなんだ。」
まだ胸が痛い。今ここで、抱きしめたい。キスしたい。でないと、叫びだしてしまいそうだ。
朦朧としながら歩いていると、彼女が自転車の荷台を引っ張った。
「もう遅いし、そろそろ乗せてよ。」
「え?」
学校を出て、いつもの曲がり角はとうに過ぎていた。
「ごめん。あの、、、」
言いながら俺は自転車を停めて立てた。深呼吸して、クールダウンしてみる。どうしようか。悩みながら彼女を見ていたら、手が勝手に彼女の腕を掴んで抱き寄せていた。