坂道では自転車を降りて

「まあ、それもお前らしいっちゃお前らしいか。でも、自己中もいいかげんにしないと、愛想つかされて、振られるぞ。。」
「それは困る。」
「独占欲の強い男は付き合ってもすぐ別れるって、なんかで読んだぞ。」

飯塚はひとしきり笑った後、にやついた顔で彼女の話を続けた。
「いいよなぁ。あの細くて茶色くて柔らかそうな髪の毛に、俺も触ってみたかったよなぁ。あれ染めてるの?茶色いよな。」
「。。。。。」
「おい。」
「ああ、あれは地毛なんじゃないかな。あまり気に入ってないみたい。くせ毛も嫌だって言ってたし。」

 全く化粧っ気のない彼女が、髪を染めているとは思えない。それに以前、部室の工作用のはさみで、伸びた前髪を切っていたという話を聞いた事がある。おしゃれに無頓着なのだ。

「そうなの?あのくにゃくにゃでうねうねが可愛いのに。」
「俺の髪もくせ強いから、気持ちは分かるけどな。」
「お前の剛毛といっしょにすんなよ。」

 彼女の子供みたいに細くて柔らかい髪の感触を思い出す。つるつるの手触り。秋の原っぱの匂いのする髪。抱きしめると鼻先で揺れてくすぐったい。ときどき、かすかに花のような匂いがする。昨日は結局そのまま家の前まで送った。一晩寝ても彼女に触れたい気持ちは収まらない。

 部室で彼女に触れた日の記憶が蘇る。今も手に残る肌の感触。上気した頬、潤んだ瞳。目尻から流れて落ちた涙。喘ぎ声。夢の中では、毎晩のように抱いている。夢の中で、彼女はコロコロと笑って、フワフワと柔らかくて、俺が触れると恥ずかしそうで、でも嬉しそうで。俺の腕の中で、もぞもぞ動く。はにかんだ笑顔が眩しくて。

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