坂道では自転車を降りて
「これで潔く引退できるな。この公演が終わったら受験勉強だ。」
先輩はまた歩き出した。複雑な気分だった。俺はこの先輩が嫌いではない。一緒に舞台を作って来た。解釈や演技を巡ってぶつかり合う役者達を少し離れたところから見守り、多くの部員達から信頼を得ていた。俺にとっても信頼できる兄のような存在だった。好きな娘がいるなら応援したいと思う。なのに、何故か少しホッとしている。

「まだ、相当残ってますけどね。」
「そうだな。。」
それぞれ靴に履き替え、昇降口で立ち止まった。ここで別れるからだ。

「あいつは、紅一点だから、何かと扱いにくいし、よくわからんやつだが、川村と一緒に頼むよ。いい子なんだ。」
「ええ、知ってます。」
「だよな。」
「なんか、彼女のお父さんみたいですね。」
「お前な、人の傷を。。」
この人のために、俺は何かできないのだろうか。。
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