坂道では自転車を降りて

確かに。少し距離を置くべきなのかもしれない。冷静にならないと、彼女を守る事なんてできない。
「ほらっ。『うん』とか言って、気持ち悪りィ。彼女だって子供じゃないどころか、しっかりしてるんだから、ほっといたって、大丈夫だよ。」
「確かに。そうだな。」

わかってはいるんだけど。いや違う。問題はそこじゃない。距離なんかとれるわけがない。今この瞬間だって、触れたいと思っているのに。
「なっ。そうしろ。」
「うるさい。そんなこと、できたらとっくにやってる。」
「なっ。。。」

いきなりわめきだした俺に、飯塚は驚いて、目を丸くしている。
 触りたいんだよ。大事にしなきゃって思ってる以上に、触りたくなるんだ。一日中腕の中に入れて、ふわふわの躯を抱きしめていたいんだ。あんなことや、あんなことして、声をあげさせて、乱れさせて、泣くまで弄り倒して、俺が好きって、言わせたいんだ。

「あうーっ。うるさい。うるさい。うるさいっ。」
俺は自分の中の声に向かってわめき続けた。このどうしようもない感情を、どこかへ捨ててしまえたら、もっと彼女を守れるのに。傷つけないでいられるのに。

「飯塚。」
俺の様子を見かねたのか、原がやってきた。
「こいつ、すでにかなりテンパってるから、そのへんで勘弁してやって。」
「わ、わかった。」
机に突っ伏した俺を置いて、2人は席に戻ったようだ。うーっ。
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