坂道では自転車を降りて
部室に着くと、生駒さんら一年が来ていた。今日は彼女の本を見てやることになっている。さて、これをどうやったら上手く纏められるんだろう。オムニバス的にいろんな出来事を重ねて、一つの大きな筋にしてみるってのはどうだろう?
多恵に絵を描いてみてもらおうかと思って頼んでみたのだが、彼女はあまり気が進まないようだった。
「この本の人物とか細かいシーンは、生駒さんの中でもう出来上がっているような気がする。私なりにも描けるけど、今は描いても邪魔になるだけだと思う。どちらかというと、言いたい事というか、主題が絞れていないというか、でも絞らなくても良いのかな。よくわからないや。そういうのは神井くんの方が得意そう。君がじっくり話を引き出してあげるしかないんじゃないかな。」
彼女の言った事をそのまま生駒さんに伝えると、生駒さんは少し悔しそうな顔をした。俺は、自分が話したい性格だから、人に意見を言わせるのはあまり得意ではない。原や山田の方が適任だ。昼休みも半分過ぎた頃、多恵が現れた。
「ごめんね。絵は、なんか上手く描けなくて。少し分からない部分があって。聞いても良い?」
「はい。」
彼女は生駒さんからあらすじを聞き取りながら、スケッチブックをひろげて相関図にして行った。
生駒さんは訝しがらず、夢中になって話をしていた。彼女は生駒さんの話を絵と文字で書き込む。話すにつれて、生駒さんがこの作品の中に持ってる世界観みたいなものが、鮮やかに広がり、それが綺麗にノートに纏められて行く。同時に曖昧で辻褄の合わない部分がかなりある事もはっきりと示された。俺達はうすうす分かっていたのだが、生駒さん自身は納得できずにいた箇所だ。これをどうするか。