坂道では自転車を降りて
「本来ならそういう時は川村先輩が裏を纏める筈だったんでしょうけど、やる気ねぇのか、大野先輩が舞台に行っちゃうと、川村先輩までスイッチ切れたみたいに動かなくなっちゃうし、なんかイライラして俺達に八つ当たりして来るし、結局、途中で来なくなったし。引き継ぎもなんもできねぇから、大野先輩も最初訳が分からなくなってて、ヒステリー気味だったし。高橋もかなり困ってたけど、最後は俺達だっててんてこ舞いでしたよ。」
言われてみれば、リハの前日まで作業をしていた。かなり押していたことは確かだ。こいつらも随分苦労したに違いない。
「でも大野先輩だって、川村先輩の事は誰よりショックだった筈だし、俺達は何も言いませんでしたよ。時々、目潤ませたまま作業してたりして、辛そうでした。それでも、いつも図面と進行表を持って帰ってチェックして、次の作業票を作って来て。作業だって、女の子なのに遅くまで残ってやってましたよ。それをあんたら、気軽にホイホイ舞台に呼び出して。先輩、一度作業中に倒れたんですよ。あんた知らないでしょう?」
「え。」
絶句してしまった。聞いてない。知らないぞ。本当に倒れたのか?
「倒れたは大げさですけど、急にふらふらって、立っていられなくなって。たまたま俺が近くにいたから良かったけど、工具とかの上に倒れたら、怪我してましたよ。本人は大丈夫って言うし、ソファに運んで休憩したらすぐ復活したから、実際に大した事なかったんだと思いますけど。その時はもう顔色とか真っ白で。俺の方がパニックですよ。」
「ソファに運んだって、お前が運んだの?」
「はぁ??気になるのはそこですか?そうですよ。俺が運びましたよ。ふたりっきりでしたしね。文句あります?」
「いや。。」
織田はふたりっきりのところに力を込めて言った。